「アルテピアッツァ美唄」は、閉山になった炭鉱の跡地に、美唄市と美唄出身の世界的彫刻家・安田侃氏によって、現在も創られている野外彫刻公園です。 現代彫刻が周囲の木々や清流などの自然と調和し、訪れる人の心を魅了します。ここで5年前から行われているのが「こころを彫る授業」。通年行われている授業ですが、年に数回、安田侃氏自身が訪れアドバイスをしてくれます。北の果て北海道・美唄で、世界の最先端のアートに触れられる貴重な授業です。



豊かな自然の中で、自由なスタイルで創作に没頭

「目に見えない、形がない“こころ”を大理石で形にしてみよう。 石を通して自分と向き合ってみよう」という安田氏の発案で始まった「こころを彫る授業」。 授業の冒頭、「もっと良くしようとか、美しくしようとか、邪心を持たないで今日も石に向かってください」と安田さんが話すと、 受講生たちは瞳を輝かせ、制作工房「ストゥディオアルテ」は静かな熱気に包まれました。 彫刻家ミケランジェロが自ら採石したイタリア・カラーラ産の大理石を、イタリア製のハンマー、ノミ、棒ヤスリなどを用い彫ります。 イタリアの彫刻家たちが使っている頑丈な台を模して作った作業台を使い、安田氏が愛してやまないこの地で、 直接アドバイスを受けながらの授業。眩しく輝く緑に囲まれ、野鳥のさえずりをBGMに、この上ない素晴らしい環境の中で行われます。 重い作業台を外に運び出し、涼しい木陰の下や芝生の上で、思い思いのスタイルで取り組む人。 愛犬と一緒に参加している人や、おばあちゃん、お母さん、お孫さんと親子3代で参加する人も。 授業は午前10時から午後4時まで。途中、公園を散歩したり、木造校舎の中にあるギャラリーを訪れたり、 創作に没頭しながらも自由に過ごします。

コツコツ、トントン、石を彫る
あるがままの形は自分の心


取材日には京都、東京から来ている参加者もいて、この5年間に全国から多くの人が訪れ人気は絶えません。 富山県から初参加した女性は「作品から発する空気感に圧倒されて安田さんのファンになりました。 作品はこの2日間にこだわらず、長期間で作り続けたい」。4年間通い12個の作品を手掛けたという男性は「何個彫っても満足しません。 見れば見るほど足りないところが見えてきます」と、13個目に挑戦中。 「元の大理石を生かそうと悪戦苦闘していますが、いつも石の存在感に負けてしまう」「石に向かっているときは無心でリフレッシュできます。 でも思い通りにいかないことがほとんどで、いつも自分に挑戦している気分」「道具がやっと使えるようになって、石を固定して彫ると、 今度は自分が移動して、削ったり、磨いたり。進むのは少しずつ。どこまでやったら終わりなのか、永遠に終わらないかもしれません」 「心は形がないけど、向き合って形になったものは、自分以外の何ものでもないのだと思います」。 哲学者のような言葉が、するすると出てくることにこちらも驚くほど。 石に向き合い彫る真剣な時間は、想像以上に濃密のよう。






「教えることはできない。心は移ろいやすいものだから」

安田氏はゆっくり室内を巡り、創作に没頭している人に邪魔にならないようさりげなく声をかけます。 指導するのではなく、技術的なことを少しだけ実践して見せます。 生徒さんが硬くて彫れないところも、まったく力を入れずに、削る音さえも心地が良いほど軽やかに彫ります。 「教えるのは技術だけ。心はそれぞれ違い、一瞬一瞬変わるものだから教えることはできません。 本人も知らない姿が石を通して浮き彫りになることもあります。 石を彫ることで他と比較するのではない、その人自身の価値観を見つけてほしい」と語ります。 大理石は硬く、手強い。実は道具を使いこなすのに1日かかり、翌日は筋肉痛になるほどハード。 でも時間が経過するほどに、集中力は高まり、無垢な心を石は映します。 授業の終わり、作品は完成しなくても、まるで長距離マラソンを完走した後のような充実した表情のみなさん。清々しく美しかった。

撮影/工藤 了
取材・文/柳 亜古






アルテピアッツァ美唄


アルテピアッツァ美唄
住所/北海道美唄市落合町栄町
電話/0126・63・3137
開館/水曜〜月曜 
時間/9:00〜17:00
休館/毎週火曜と祝日の翌日(日曜は除く)
http://www.artepiazza.jp

安田侃氏が次回訪れる「こころを彫る授業」は
2011年9月18日(日)、19日(月・祝)10:00〜16:00
申し込み・問い合わせなどはアルテピアッツァ美唄まで。

安田侃オフィシャルサイト
http://www.kan−yasuda.co.jp
※9月には札幌市内で野外彫刻展を開催。



柳 亜古(フリーライター)

取材当日は幸運にも、安田氏の解説付き野外彫刻巡りに参加しました。 ユーモアたっぷりで、オチがおもしろいトークと飾らない人柄に、 巨匠であることを忘れ、すっかりファンになって帰ってきました。


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