日本男児の心意気と骨太ロックを組み合わせた、独自のサウンド「JAPANESE R&E(リズム&演歌)」を展開するのが、1984年に札幌で結成されたバンド、怒髪天です。時には仕事終わりの1杯のビールのおいしさを歌い、また、ある時には、母親が作るカレーライスへの郷愁を、そして、失敗しても気にするなと励ましてくれるーー。いつでも、傍らにいて一緒に泣き笑いし、背中をそっと押してくれるような楽曲。そして熱く、ハートのこもったライブが彼らの魅力です。いまでこそライブバンドとして人気を集めていますが、一時期は活動休止状態になり立ち止まったことも。そこを乗り越え、歩き続けてきた原動力は何なのか、フロントマンのヴォーカル増子直純さんに聞いてみました。


●3年間の活動休止が大きな力に

怒髪天は札幌を拠点に活動を始め、'91年にメジャーデビューのため上京するものの、バンド活動に行き詰まって'96年から3年間活動を休止。その間、メンバーは工事現場などで働き、増子さんは包丁の実演販売で全国のデパートを回った経験もあります。

増子:休止前は若かった故に煮詰まって、何のために音楽やっているのか見失ってた。CDは売れないわ、お客は入らないわで、ストレスがたまって世の中を逆恨みしていたんだよ。もともと、パンク・ロックをやっていたから、世の中に対して反発していたからね。ところが、実際、社会に出て働いてみたら、面白い大人がいっぱいいて世の中捨てたもんじゃないなと、価値観がガラッと変わった。

いろんなことを見つめ直して、俺たちは頼まれて音楽をやってた訳じゃなかった。好きでやっていたんだ!って思い返した。支持されようとか、受けようとかでなく、回りの反応も気にならなくなって、ただシンプルに「好きなことをやろう!」と。何かを成し遂げるとかじゃないし、基本に戻って、4人で楽しくやろうとね。もともと、一緒にやったら面白いだろうなと思うメンバーを集めて始めたバンドだから、この4人だからできることをやろうという基本に戻った。

有名になりたいとか、もてたいとかとかいう目的があって手段としてバンドやる人もいるけど、俺たちは楽しくバンドをやることが目的。食えないからバンドをやめるって話も多いけど、最初から食えないってわかっててやってるから、それでやめるってこともない(笑)。
無欲になって好きなことを続けるうちに、うまく転がり出して、40代になってから音楽で暮らせるようになった。でも、気持ちは草野球を楽しむ人と一緒。趣味として好きでやってるのと、いつまでも変わらないね。



●いい楽曲づくり、いいライブに徹する

活動再開後、価値観が変わったことで、働く大人たちを応援する楽曲が目立つように。じょじょにライブの動員数が増え、CMに出演するなど人気は右肩上がり。10〜20代の若者から、年配の方まで幅広い客層に支持されています。

増子:働いて面白い大人と出会ってから、生活に密着した大人の歌を作ろうと思った。ありのままの自分たちの歌、基本的には自分を応援する歌だね。人生がアニメだとすると、夢や希望、闘いなど日々思ったことを歌うのは、自分に対する主題歌だからね。アニソンならぬ“オレソン”。「ガンバレ、俺!」ってことだよ(笑)。他人がどんなにガンバレって言ったって、自分で感じないと動かないでしょ。俺たちの曲を歌うことで、その曲がその人のものになり、応援歌となる。だからこそ、一生懸命やっている姿を見せて、どんなに失敗したって楽しもうっていうメッセージを伝えたいんだ。

俺たち自身の姿勢はまったく何も変わってないんだけど、回りが変わって、お客さんが増えている感じ。本当にありがたいこと。ただ、色々な経験をしているから、上がったら、いつかは下がるってこともわかっている。まあ、落ちるのもありだからね。でも、落ちたからといって活動は変わらない。俺たちができるのは、いい楽曲を作って、いいライブをするために努力することだけ。

年々、そこを追求するがために、曲の練習を執拗にやることになって、ノイローゼみたいになってる。念には念を入れないと、いい状態にならないからね。いいものを作りたくて、ライブも毎回、終わったとたん倒れ込むくらいまでやっている。「そこまでしなくてもいいんじゃない」と言われることもあるけど、前回を越えるライブをしないとお客さんが来なくなる。毎日が全力投球。打ち上げに行くよりは次の日に備えて身体を休めてと、どんどんストイックになってるし。まるで修行僧みたい(笑)。でも、やり甲斐があるよ。



●いまの時代を生きる一人として

好調な活動を続けていた2011年、未曾有の大災害、東日本大震災が起きました。怒髪天は震災後、「オレがやらなきゃ誰がやる! ファイト ニッポン まかせとけ」と、がんばる決意を表明した『ニッポン ラヴ ファイターズ』を発表するなど、より元気を与える楽曲づくりに向かっています。

増子:震災がきっかけで確かに変わってきたね。まず、アーティスト的なエゴがなくなり、辞書を引いて使っていたような表現はまったくしなくなった。自分たちの言葉を使い、短時間で伝わるメッセージを考えるようになった。現状を考えると、辛辣な内容や苦悩する姿を訴えたくなるけれど、毎日がそんな状況の今、ヘビーなものは受け取りたくないでしょ。聴く人が「同じ時代を生きているんだ」と感じて、心が明るくなるようなものを意識している。悲しみを減らすことはできないけれど、楽しい思い出を増やすことはできるから、楽しかったと思ってもらえるライブを見せたいし。

個人的には、政治もさまざまな社会問題も全部自分の問題なんだと感じるようになった。そして今は、ほかの国の戦争のことより、身近な東北のことを考えるほうが、自分にとってリアルなこと。いまの時代を生きる一人として、よりリアルなことと向き合っていきたいと思う。



●どこまでも4人で

今年3月には「DOHATSUTEN 三十路(ミソジ)まえ“カムバック・サーモン2013 男の遡上”」と銘打ち、メンバーの地元である札幌、留萌、深川、千歳でライブを行った怒髪天。再び大海に泳ぎ出て、来年1月12日には、初の日本武道館ライブが決定。平均年齢46歳にして、ますます勢いづいています。

増子:30年やってきたんだから、ご褒美に1回くらい武道館でやってみようっていう感じ。30歳の誕生会だから、みんなで祝えるようにってとこかな。もし、人が集まらなくて失敗しても、若い人たちの刺激になると信じている。デッドボールが当たるかもしれないけれど、常にバッターボックスに立ち続けて戦っていれば、ホームランが打てるかもしれない。打てなくても立ち続けることが大切なんだというところを伝えたいね。

でも、武道館はあくまでも通過点。俺たちの目標はいつまでもバンドを続けること。将来的に役者になりたいとか、ソロになりたいとかもないし、基本的に一生バンドマン。4人が健康でバンド活動を続け、借金しないで暮らせれば、それでいい。いまさらやめられないし、生きてる限り、ずーっと続けたい
今、上京前とかの昔の曲をやると、感触がまったく違うから、今の曲を将来やったらどんな感じがするのか。それが楽しみでたまらない。

まっすぐに音楽への道を歩み続ける怒髪天。そのひたむきな思いが、聴く人の心を動かすのでしょう。最後に同年代の人も多いFIL読者へのメッセージをお願いしました。

増子:40代半ばになると、老眼になったり、痛風になるメンバーもいて、体力も続かないんだけど、それは物理的なことだけ。精神面はより充実している。そっちのほうがよっぽど価値があることで、年を重ねないとわからない面白さがある。若いうちは無茶できるけれど、年をとってからのほうが、いろんなことを体験してる分、世の中を引っ掻き回していける。こうしなきゃダメなんて規定はないんだから、お互い好きなようにやっていきましょう!


<今後の札幌でのライブ>
■8月16日・17日「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ *神輿とともに登場するなど、毎回会場を沸かせる怒髪天が「怒髪天RSR 石狩鍋Special」として出演。

■11月8日「DOHATSUTEN 三十路(ミソジ)まえ"七色の虹をかける野郎ども"ツアー」Zepp Sapporo。問い合わせ WESSエ011・614・9999

怒髪天オフィシャルHP/dohatsuten.jp




文/ヤシマミホ(フリーライター)

ライブや芝居を見に行ったり、週末はたけ作業したり(10年目)、味噌を作ったり、札幌暮らしを楽しむライター。怒髪天と出会ったのは、タウン誌に勤務していた28年ほど前。それ以来長く付き合っているのは、やっぱり4人の人柄と曲が魅力的ってこと!

★Special Back Number
2011.3 2011.4 2011.5 2011.6 2011.7 2011.8 2011.9 2011.10 2011.11 2011.12 2012.1 2012.2 2012.3 2012.4 2012.5 2012.6 2012.7 2012.8 2012.9 2012.10 2012.11 2012.12 2013.01 2013.02 2013.03 2013.04

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<怒髪天>
1984年に高校生だった増子直純さんが結成。'88年に現メンバーとなる。2014年1月12日「怒髪天結成30周年記念日本武道館公演“ほんと、どうもね”」が決定。 写真右より、上原子友康/g、増子直純/vo、清水泰次/b、坂詰克彦/ds



最新アルバム 4月24日発売「ドリーム・バイキングス」通常版。リードトラックでは「限界も常識も情熱で越えて行く、俺たちはまだまだいけちゃう野郎ども」と歌い上げる。全11曲収録。















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