今月のFILは「パリ日和」と題しまして、わたくし、蒲原みどりがフランスの都パリで出会った風景を綴ります。

この度、初めて海外で絵画展を行うことになり、約7年ぶりに訪れたフランス・パリ。ファションブランドMiki MIALYのメゾンにて絵画展が開催され、ブティックに作品を展示しました。搬入と搬出の作業も入れて20日間にわたるパリ滞在。そこでは様々な人と風景に出会い、触れ、新しい風に私の着ていたワンピースがふわりと揺れたのでした。

今も私の頭のなかにはフランスの風景が広がっています。以前にも2度パリを訪れていますが、数を重ねるごとに、出会う風景の色彩が鮮やかになっていく様。不思議ですね。それでは、今回のパリ滞在で印象的だったいくつかの風景をご紹介していきたいと思います。



マレ地区の風景

個展会場である「Miki MIALY」のメゾンは、ファッションブティックをはじめ、アートギャラリー、雑貨のお店などが集まるマレ地区にありました。広い店内には新作コレクションの素敵なお洋服が並びます。

個展のヴェルニサージュ(オープニングパーティ)には多くの方々に集まっていただき、シャンパンで乾杯しながら色々な人とお話をしました。 会場にいらしていた個性的なファッションのマダムはジュエリーデザイナー。話かけてくれた日本人の男性はフレンチのお店のシェフでした。皆さんはすぐ側に自分のお店や職場があり、こういったパーティにはご近所さんが気軽に集まるのだそう。

後日、Mikiさんのお店から歩いてマダムのジュエリーのお店や、フレンチのお店を訪問。また、近くにある雑貨のお店「merci」へ寄ってみたり、数分先にある素敵なバーで柚子のカクテルを飲んだり。ある日はギャラリー巡りをしたり。会場に在廊しながらも、マレ界隈を楽しみました。嬉しいことに、年に2度だけ開催されるマレの蚤の市に当たり、初めてアンティークに溢れた出店を見て歩きました。好きなバターシュガーのクレープを食べながら。

★Miki MIALY
12 Rue Froissart, 75003 Paris, France
Tel/01 42 78 91 97(12:00〜19:00/日・月定休)
http://www.mikimialy.com



パリの美味しい風景

昨年はノルウェー、スウェーデン、デンマーク、スイスと、北欧を中心に海外出張が続きました。私は和食がとても好き。パンとワインが苦手ということもあり、食を楽しめない海外での滞在は厳しいものがあります。けれど、パリで嬉しいのはカフェで新鮮なサラダボウル、赤身ステーキにフライドポテトなど、良く知っている料理を気軽にお腹いっぱい楽しめること。 コクのある温かな魚のスープ「スープドポワソン」も大好きです。

そしてパリ滞在中、札幌出身のシェフによる和食のお店「仁」へ伺いました。パリにオープンしてまだ半年ですが、カウンターのみの店内には常に満席。 小鉢と刺身をいただきながら最後に寿司を握ってくれるコース料理(95ユーロ〜)。お寿司がやっぱり好きな私は、その美味しさに目をつむりながらいただいたのでした。 私の中でパリに来たときには必ず行くお店になりました。だって、滞在中に2回行きましたから。シェフのタクさん、ありがとうございました。

★JIN Rue Saint-Honore
6 Rue de la Sourdiere, 75001 Paris, France
Tel/01 42 61 60 71(日定休、要予約)
http://www.facebook.com/JinSaintHonore?fref=ts



美術館のある風景
ギュスターヴ・モロー美術館


外国を訪れたときに楽しみにしているのが美術館巡り。特にパリにはたくさんの美術館があり、嬉しい悲鳴です。7年ぶりにルーヴル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥーセンターを訪れ、壮大なコレクションとその素晴らしさに胸がきゅんとなります。また、ケ・ブランリー美術館やパレ・ド・トーキョーなど、専門的な分野を掘り下げたミュゼも、大変興味深く楽しみました。

そして今回のパリでどうしても訪れたかったのが「ギュスターヴ・モロー美術館」。モローの邸宅とアトリエのあるアパルトマンそのままがモロー美術館になっています。階段を上り、大きな広間へ。ふと見上げると、数々の大作が壁面を埋め尽くしていました。絵の放つオーラに圧倒されながらも、優雅で艶やかな色彩に吸い込まれそうな感覚。あまりにも凄すぎて倒れるようにベンチに座ってしまいました。そして有名な作品「出現」と対面し、その細部の描き込みに驚きました。

本物に出会うことの発見、喜び、感動。モローの美しい絵画を通し、芸術の尊さを身体で体感することの重要さを改めて学んだのでした。

★ギュスターヴ・モロー美術館
14, rue de La Rochefoucauld, 75009 Paris, France
Tel/01 48 74 38 50(火曜閉館)
http://www.musee-moreau.fr



建築のある風景
ルーヴル美術館別館「ルーヴルランス」


もう一つ、パリで楽しみにしていたこと。それは建築を見ることです。今回はパリの郊外に新設されたルーヴル美術館の別館「ルーヴルランス」に会いに出掛けました。

昨年の12月に完成したルーヴルランスは、日本人の建築家・妹島和世氏と西沢立衛氏によるSANAAの作品。日本では金沢21世紀美術館の設計を手掛けられたことでも有名です。約10年の歳月をかけて完成したその姿は、境界線の消えた非現実的な、夢のような風景でした。 屋内も美しく、美術作品を際立てる空間構成です。

館内のカフェから庭に出てみると、なんとそこには建築家の妹島さんご本人がいらっしゃいました!撮影中で雑誌取材の様子。建物の周りを歩きながら思いました。日本人をとても誇りに思う素晴らしい建築。と。皆さんにも是非、訪れていただきたいルーヴルランス。オープンを記念し、今年の12月まで入場無料です。

★ルーヴルランス
la Rue Georges Bernanos, 62300 Lens, France
Tel/03 21 18 62 62(火曜閉館)
パリ北駅より電車で約1時間10分、Lens駅にて下車。
Lens駅より美術館への無料送迎バス運行。
案内看板を見ながら徒歩(約15分)でも行けます。
http://www.louvrelens.fr



建築のある風景
ル・コルビュジエ「ロンシャンの礼拝堂」


フランスへ行くのであれば是非見たいと思っていた、ル・コルビュジエによる教会「ロンシャンの礼拝堂」。フランスとスイスの国境近くにあるため、とても遠い道のりです。 パリより高速鉄道TGVに乗り、日帰りで訪れることにしました。

その日はパリに来てから初めての快晴に恵まれ、新緑に囲まれた丘の上で、やわらかな白色をした礼拝堂は佇んでいました。丘の手前には売店と休憩所、トイレを兼ねた新しい施設が設計されていました。並ぶように修道院も建てられていてシスター達の姿も。ポンピドゥーセンターの設計でも知られる建築家レンゾ・ピアノによるラウンドスケープで整えられたそうです。

売店で入場料8ユーロを支払って専用ゲージをくぐり、礼拝堂へ向かいます。私は教会という建造物がたまらなく好きです。今まで様々な教会を見てきましたが、特徴的な屋根の形とたくさんの小さな窓。どこから眺めても個性的でこんな礼拝堂は見た事がありません。ぐるりと建物の周りを歩いて眺めて。どきどきしながら中に入ると、ステンドグラスの窓から降り注ぐ光がちかちかと輝きながら静かに迎えてくれました。祭壇の横でロウソクに火を灯し、椅子に座り、ひっそりとした空気の動きに耳を澄ませて。時間が経つのも忘れ、光に触れる空間に心地良さを感じました。鳥の声だけが響く青空の下。フランスを訪れることができたことに感謝をして。さようならロンシャン。


●はじめてロンシャンへ行く人へ〜アクセスガイド●
2013年6月現在のパリからロンシャン日帰りTGV路線での行き方について明記します。近年新たに新設されたTGVラインにより、以前はフランス国鉄特急列車でパリ東駅〜Belfortの片道約4時間のルートが、リヨン駅〜TGV用Belfortの新ルートで片道約2時間40分になったとの事。嬉しいのですが、料金が高額なのと、TGV用の新しいBelfort駅と以前のBelfort駅(Belfort ville)とは、なんと約10kmも離れているという難点。新設の駅はまだGoogleマップに記載されておらず、当日現地で判明しました。チケット発券時に国鉄カウンターで聞いてみましたが、2つの駅は隣り合わせだから大丈夫の一言。全然違いましたよ。

ちなみにフランスの列車料金は飛行機の料金制度と同じく、早めに予約をすると安くなります。昼間や夕方は高く、早朝や遅い夜の便は安い金額設定です。TGV用Belfort駅到着後、唯一の交通手段であるバスに乗って急遽、旧Belfort駅(Belfort ville)へ向かいました。バスのチケットは駅構内にある売店で1日券6ユーロを予め購入し、往復使用すると良いです。<フランスの田舎では駅でのそういった説明や道路看板も全てフランス語。英語も通じないので、同行してくれたフランス語が堪能な友人に感謝です。

バスに乗って約20分後、旧Belfort駅に到着。と、同時に帰りのTGV用Belfort駅への時刻表をチェックしておきます。さて、そこからタクシーに乗って、ロンシャンの礼拝堂の入口まで目指します。田舎なのでタクシーは一台も見当たりません。駅員にタクシー会社を紹介してもらい、電話をして呼びます。約15分後に駅に迎えに来てくれました。今はタクシー料金も値上がりして、メーター制で旧Belfort駅からロンシャン礼拝堂ゲートまで約45ユーロ(約20分)。運転手におまけをしてもらい40ユーロに。帰りも同じタクシー会社にお願いし、40ユーロで旧Belfort駅に到着。往復80ユーロとなりました。

礼拝堂をくだり、坂の下に見える小さなロンシャンの街では午後〜夕方までシエスタと呼ばれる社会的に認められた「お昼ね専用」の長時間昼休みがありますので、一斉に店は閉まり、人の姿が消えます。なんだか嘘のような光景ですが、本当です。そうすると、旅人としてはタクシーを呼んでもらうこともできず、トイレすら借りられません。ロンシャンの売店でトイレを済ませて、タクシーを呼んでもらうことをおすすめします。公共交通も含めて時間通りに進まないのがフランス。余裕を持って、寛大な気持ちでのぞみましょうね。

★ロンシャンの礼拝堂(ノートルダム・デュ・オー礼拝堂)
13 Plain de la Chapelle, 70250 Ronchamp, France
Tel/03 84 20 65 13
http://www.ronchamp.fr





蒲原みどり
(美術家・ビジュアルデザイナー)


札幌を拠点に美術制作を行う。ビジュアルデザイナーとして広告デザイン、イラストレーション制作の他に、本の装丁デザイン、挿絵を手掛ける。 http://www.midorium.com



★Special Back Number
2011.3 2011.4 2011.5 2011.6 2011.7 2011.8 2011.9 2011.10 2011.11 2011.12 2012.1 2012.2 2012.3 2012.4 2012.5 2012.6 2012.7 2012.8 2012.9 2012.10 2012.11 2012.12 2013.01 2013.02 2013.03 2013.04 2013.05

★Back Numberはこちらからご覧いただけます。




チュイルリー庭園。思い思いに過ごすパリの人々。


Miki MIALYにて「MIDORI KAMBARA Exposition」。


MIDORI KAMBARA ExpositionのDM。


たくさんの人で賑わいました。デザイナーMikiさんとヘアサロンのアトリエJDパリのSakikoさん。


蚤の市。本や写真、食器、家具、バッグ、靴など、見切れないほどのお店が立ち並びます。


カフェでサラダボウルとステーキをAkikoさんとシェア。ビールで乾杯。和食の店「仁」でいただく寿司は絶品。 建築家の坂○さん、デザイナーKE○ZOさんもいらっしゃいます。


ギュスターヴ・モロー美術館。螺旋階段から見下ろして。時が経つのを忘れます。


ルーヴルランスのエントランス。周りの風景が壁に映り込む不思議な景色。


ルーヴルランスの展示室。時系列に美術品が配置されています。


建築家の妹島さん。取材中でした。


ロンシャンの礼拝堂。光とコルビュジエの囁きにいつまでも浸っていたい気持ちに。

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