かわいい雑誌の1ページ、かっこいい街角のポスター、気になるCMの1シーン、心弾むディスプレイ。これらの陰には必ずスタイリスト・石切山祥子さんの存在があります。 CMやポスター、雑誌のスタイリングのみならず、新聞連載やトークショーなど、今やスタイリストのカテゴリーを越え、エネルギッシュに活躍する石切山さん。 いつも自然体で前向きな彼女に、仕事のこと、最近のこと、聞いてみました。


Q1/スタイリストの仕事について教えてください。

A/スタイリストというのは、広告写真だとしたら、写真全体をスタイリングします。 モデルが着る服のコーディネイトを始め、例えば、かわいい鳥カゴや額縁などイメージに合った背景に使う小道具を用意して、1枚の写真に仕上げます。 ケーキの撮影なら、皿、フォーク、テーブル、背景の色などを選びます。それが雑誌広告やポスター、パンフレット、CMの映像などになります。 ウェディングのパンフレットの撮影なら、お嫁さんのドレスもやりますが、お母様役の衣装やゲストの衣装。室内装飾、食器や花選び、花器、飾り方、料理の形状、盛り付け、ビュッフェ台のイメージや、テーブルコーディネイトなど。基本的には写真1枚に仕上げますが、映像になることもあります。

1年前から絵本作家・そらちゃんの絵とコラボレーションした広告を作っています。そらちゃんが描いたイラストに合わせてモデルさん、服、小道具を選び、3階吹き抜けの空間に下げる巨大フラッグのシーンを作り上げます。それ以外に、季節やテーマに応じたパブリックスペースのディスプレイや企業の制服、ショップのデザイン、デコレーションなど、ここ数年、撮影のためではない仕事が増えてきました。常時6案件くらい同時進行で抱えているので、頭の中がぐちゃぐちゃになることもありますよ(笑)



Q2/キャリア25年、やめようと思ったことはありませんか?

毎回自由にやらせてもらい仕上がりを見ると、こんなに素敵にできたんだから、次回も頑張ろうと思うんです。 スタイリストの仕事は、作家の作品とは違うので永久不滅ではありません。その時の空気感を出すことが重要だと思っています。 次に出合う仕事で、その時々の空気感を表現していく、ですから新しく取り組む仕事が、続けていく原動力になっているのかもしれません。 仕上がりは素敵で満足したとしても、次はもっとできたはず、と欲求が出てきます。スタイリストになりたての頃と気持ちは同じで、「できなくて悔しかったから、次頑張っちゃおう」「まだもうちょっとできるはず」と今も思い続けていて、とっても前向きな性格なんです。


Q3/スタイリスト、プロとして、大切にしているポリシーを教えてください。

皆と違うかもしれませんが謙虚でいること。スタイリストは、引き立て役なので、感性を押し付けず、主役(商品)の良さを引き立てるのが大切だと思っています。 と同時に提案することも大切で、本当は思いきったスタイリングをしたいタイプなんですが、より商品が映えるためにはどうするか。 引き立て役でいながら、個性を盛り込んで演出すること、いつも葛藤しています。

あとは柔軟であること。打ち合わせを重ねて、あらかじめ決めたスタイルがあっても、現場に行って違うと思った時は、その場でプランを変えます。 決めつけないで、変えることも新鮮な感動なのです。何が起きるかわからないのが現場。 「これしかできなかった」と、帰ってくるのがイヤで、倍の荷物を持って行くタイプなんですけど、その時のひらめきで、どこまでできるか、心を柔軟にしておくことを大切にしています。



Q4/現在、新聞の記事を書いたり、トークショーで話をしたり、スタイリストとしての仕事の幅が広がっていますが、今自分に何を求められていると思いますか?

2年前からテレビ番組で、主婦の変身企画をやり始めたんです。 おしゃれをしたことがない人や、辛い思いをしてきた人をヘアメイクと洋服のスタイリングで、おしゃれに変身させる企画です。 変身させていく途中からご本人が涙、涙で、感動していることが毎回もの凄い勢いで伝わってくるんです。 スタイリストが服を選ぶことで、いつもと違う自分に変身して、「もっときれいになれるんだ」と気づいた時、人は自信にあふれて輝きだすんです。目がキラッキラッしちゃって。 そういう人たちを見て、おしゃれの役割は、ここだ!と思いました。おしゃれをきっかけに気持ちが前向きになって輝きだす。

同じく2年前に、年配者や体に障害を持った人が入所している施設で、ボランティアのファッションショーをやりました。 着物をマジックテープで上下二部式に作り直して、それぞれの人に合った半襟と小物も準備して、きれいで華やかな着物を用意したんです。それまで乗る気じゃなかった人も目を輝かせて「これ着たい!」と声を上げ、車椅子の人が不自由な体を懸命に起こしながら、着物を着ようとするのを目の当たりにしました。その時におしゃれは人を幸せな気持ちにさせ、人生を前向きに変える力があると実感したんです。この人たちにおしゃれを通して、何かできることはないか。自分も好きな服を買って着ているとプチ幸せになれますが、プチ幸せがもっと大きな幸せにつながる人がいることを知り、スタイリストの経験をもっと生かしていきたいと思いました。



Q5/これからやっていきたいことを教えてください。

いままでもファッションは気軽ですよ、と伝え続けてきたつもりですが、これからはそれにプラスして、これを着ると誰でもきれいに見える『服』を作りたいと思っています。変身企画や施設でのファッションショーで、おしゃれが人の心を前向きにすることを確認しました。 腰回りが大きい、お腹が出ているなど、体形の悩みでおしゃれに躊躇している人も問題をカバーできるおしゃれな服。 さらに体の不自由な人が楽に脱ぎ着できる機能的でかわいい服。既存のユニバーサルデザインの服とはひと味違う、きれいでおしゃれで気持のいい服を作りたい。5年程前に友人が義足になり、彼がわざと義足を見せるファッションを始めたことも、ずっと頭の片隅にあって、それがいろいろな仕事を通してこの頃、形になってきたのかもしれません。私はスタイリストなので、アイデアを提案して、デザイナーにデザインしてもらうのか、各ジャンルのプロと一緒に作るのか、今の段階でははっきりしたことは言えませんが、準備に取り掛かるところです。


Q6/これからスタイリストになりたい、と言う人にメッセージをください。

スタイリストの仕事は、人によって仕上がりが違うものになり、正解がない仕事です。自分の個性を反映させることができて、誰にもできない自分のスタイリングをすることができます。その楽しさがわかると、すっごく楽しい仕事です。個性が仕事になることって、他の職種ではあまりないですよね。 最初雑誌にファッションコラムを書き出した時に、諸先輩のスタイリストに何か言われるかな?!と、ドキドキしましたが、業界全体をもっと可能性があるものに引き上げたくて引き受けました。怖いモノ知らずの性格なので、新しいことにチャレンジするのは楽しい。もっと業界も盛り上げたいです。そのためには新しい力も必要で、スタイリスト集団「スプートニク」では、いつでも、アシスタントを募集しています。




柳 亜古(フリーライター)

これほど活躍していて大御所の域にいる石切山さんですが、本人はいたって自然体。緊張感漂う現場もスムーズにスタイリングしていく彼女のキャラクターに助けられた人も多いはず。これから取り組むプロジェクトも注目です。



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石切山祥子(いしきりやまさちこ)/スタイリスト
大学卒業後、OLをしながら小室哲子氏(札幌初のスタイリスト)のスタイリスト塾に2年間通い、1988年、フリーランスのスタイリストとして独立。2000年にスタイリスト事務所『スプートニク』を立ち上げ、テレビ番組、コマーシャル、広告スチールなどの撮影スタイリングを担当。衣装からインテリア、家具、食器、料理、雑貨、ファッションショーなど、抜群のセンスと丹念な仕事ぶりで、各業界から信頼が厚い敏腕スタイリスト。

















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