コーヒーと恋愛が共にあればいい。
誰かが歌った、誰かの言葉ですが、
そうメロウには、生きられません。
珈琲には、本です。
深煎りの一杯と、紙のにおいで、
お腹を下すくらいが、丁度いい。
朝昼晩のブラックと、一日に一冊の本とで、
私はできています。
今日の一日は、特別編。
喫茶店と本を旅します。
早起きをし、市電に乗ります。
好きな喫茶店をめぐり、
近くの古本屋を漁る旅。
どうぞ、お付き合いください。




7:30|純喫茶わらびで「寄り添って老後」

昭和42年創業の、リビングレジェンド。
粉っぽい朝日。光のなかで埃が踊ります。
誰かのいつもの席を、侵してはいないか。
開扉のたびに、そっと腰を上げたり下ろしたり。
いつものわらびを壊さぬように、
音を立てずに過ごします。
静かに。モーニングおいしい。
目立たぬように、はしゃがぬように。
こちらの店での、若者のマナーです。
思わず河島英五。時代おくれの男になりたいものです。

<寄り添って老後|沢村貞子著>
「いくら楽しい老後でも、
このまま十年も二十年も寄り添っていられるはずはない。
フトそう思うと、そんな毎日がもったいなくて、
なにかにつけて、声をかけあったものだ。(一部抜粋)」
昭和の名女優が綴る、老いを生きる随筆です。
早くもホームシックです。

純喫茶わらび
住所:札幌市中央区南2条西13丁目318
電話:011-231-9306



12:00|喫茶店研究所で「春宵十話」

超俗の店。
時間が止まっています。筆も止まります。
仄かな黴と、強いコーヒーのにおい。
猫の額で寝そべる猫の、額ほどのスペース。
テーブルはふたつ。先客と私で満席です。
何度か扉が開く音が聞こえました。
そちらを見遣ることはしませんでした。
譲れやしないのです。この席だけは。
痺れるような、濃い店です。病み付きです。

<春宵十話|岡潔著>
「私は春の野に咲くスミレは、
ただスミレらしく咲いているだけでいいと思っている。
咲くことがどんなによいことであろうとなかろうと、
それはスミレのあずかり知らないことだ。(一部抜粋)」
天才数学者が綴る、人生の書。
濃い本を、濃いコーヒーで流し込む。
なんと贅沢な味でしょうか。

<喫茶店研究所>
住所:札幌市中央区南14条西14丁目1-20
電話:011-561-2989



17:00|cafe Lonで「死にたもう母」

夕陽を追って、山の麓へ向かいます。
ロープウェイ入口で下車。黄色い壁。
平日だというのに、店内は日曜日のかおり。
やさしいマスター。いらっしゃいませ。寒いすね。
朗らかな笑顔は、春の太陽を思わせます。
いつもの「どこかの国のコーヒー」をいただき、
どこかの国に思いを馳せます。
窓辺にはジャコメッティのレプリカ。
じっとこちらを見ています。見ています。見ています。
はい。すみません。帰ります。

<死にたもう母|出久根達郎>
「親が死んで、涙を流すのでなく、哄笑する。
不謹慎だろうか。長命の親を子が見送る。
不幸の中のしあわせと言えないか。
(一部抜粋)」
直木賞作家が描く、実母と義母の晩年。
人生は哀しい。
こんな本ばかり読んでいるから、くしゃくしゃになるのです。
もう、家に帰ります。

<cafe Lon>
住所:札幌市中央区南19条西15丁目3-11
電話:011-596-0655



番外編|kino cafeで「KINFOLK」

パートナーの高松です。
私からもご紹介させていただきます。

扉をあけると優しい笑顔がお出迎え。
窓からそそぐ光が、季節を届けてくれます。
やさしい味。おだやかに流れる時間。
お店を象るひとつひとつが、
心とからだに、じんわり染み渡ります。
決して特別ではないけれど、
そこには「美しい日常」があふれています。

そんなお店に似合う本、KINFOLK。
小さな集いをテーマに、家族や友人、恋人との
満ちたりた時間を提案してくれる一冊です。
もっとシンプルに、もっと丁寧に。
日々を豊かに重ねていく術が、散りばめられています。

余韻を楽しみながらの帰り道。
何を食べようかなと、胸がおどります。

<kino cafe>
住所:札幌市中央区南3条西6丁目グランドビル2F
電話:011-231-9775





兼田 広樹(PHILOSOPHY代表)

兼田広樹と高松美幸
ブランディングの仕事をしています
http://www.plspy.jp


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